人材育成・社会貢献
人社系部局連携プロジェクト 研究交流会「マーケットプレイスを考える -人文社会科学からの多様なアプローチ」を開催しました。
2025年10月8日、人社系部局連携プロジェクト 研究交流会「マーケットプレイスを考える -人文社会科学からの多様なアプローチ」を開催しました。
人社系部局連携プロジェクト 研究交流会は、現代社会における様々な事象・課題を、人文社会科学の視点から多角的に探求すべく、部局横断で立ち上げた研究会で、分野の垣根を越え、共に考察を深め、研究シーズの発掘に繋げることを目指しています。
今回は、人文社会科学の多様な専門領域から、マーケットプレイスのあり方について検討しました。
この日は、学内部局の教職員など 34人が、DAICEL Studio(サイエンス・スタジオA)に集いました。

<イベント概要>
■ 開催日時:2025年10月8日(水)10:00〜12:00
■ 会場:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 サイエンス・コモンズ内 DAICEL Studio(サイエンス・スタジオA)
■ 主催:大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)
■ 共催:大阪大学 人文社会科学系戦略会議
■ 開催案内ページはこちら:https://elsi.osaka-u.ac.jp/contributions/3998
まず、大阪大学ELSIセンター 岸本充生センター長から今回の研究会の趣旨が説明され、続いて、4人の研究者による話題提供が行われました。
ゲストによる話題提供
倫理学の観点から
長門 裕介(大阪大学ELSIセンター 講師)
倫理学の観点から「転売」をめぐるコンフリクションが提示されました。「市場の論理」と「道徳的・倫理的な感覚」の衝突、「本当に欲しい人」という概念の認識論的困難さ、日米の販売戦略に反映された「フェアネス」の違い、そして転売批判が排外主義的言説に接続される危険性などが論じられました。
文化人類学の観点から
山崎 吾郎(大阪大学COデザインセンター 教授)
文化人類学の観点から、オンラインCtoCマーケットにおける「人格」「贈与」「情動(信頼)」について報告がありました。商品と贈与の境界の曖昧さ、モノの社会的履歴や来歴が持つ意味、分散化した信頼関係(双方向レビュー、履歴、バッジなど)、そして行為遂行性(performativity)の概念を通じて、プラットフォーム上に成立する新たな「社会」の特徴が述べられました。
経済学の観点から
松島 法明(大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授)
経済学の観点から、消費者個別の価格付けに関するご自身の研究を紹介した上で、個人間取引市場を整備する仕組みが紹介されました。買い手と売り手の接点における集権化・分権化の設計、価格づけにおける入札の役割、そして信頼・評判形成メカニズムの機能と限界について、先行研究のレビューを通じて論じられました。また、転売問題については支払意思額の高い人への望ましい移転と無駄な探索費用という二つの観点から差し引きになることを示唆しました。
法学の観点から
津野田 一馬(大阪大学大学院法学研究科 准教授)
まず、実定法学と基礎法学の違い、法解釈の手法について簡潔な説明が行われました。その後、プラットフォームをめぐる法的問題の現状について、それぞれの法分野ではプラットフォーム事業者の「自分は取引の場を提供しているだけで、取引の当事者ではないから、責任を負わない」という主張をどこまで認めるかという共通の問いがあることが指摘されました。こうした状況を踏まえ、「プラットフォーム法学」のような法分野を作る可能性について、その利点と課題が論じられました。

全体討論では、参加者から寄せられた質問・コメントに基づいて各分野からの観点をさらに深める議論が展開されました。
まずCtoCマーケットプレイスを論じるにあたって「信頼」というものがどの分野にとっても重要であることが指摘されました。ただし、倫理学・文化人類学・経済学・法学の各分野で「信頼」という概念の意味することや適用範囲が異なることから慎重なすり合わせが必要であることも確認されました。
また、プラットフォーマーの社会的責任の範囲についても活発な議論が展開されました。強い影響力を持つプラットフォーマーに対して「責任を取るべき」という感覚がある一方で、どこまでが適切な責任範囲なのかは明確ではありません。具体例として、取り扱う商品への規制をどのように進めていくかや、転売屋と称される人々(スカルパー)と単に不用品を二次流通市場に出品する人々(リセラー)の区別の難しさなどがプラットフォーマーの社会的責任の問題を難しくしていることが示唆されました。
その他にも、CtoCマーケットプレイスを活発にしているものとしての「スリル」の存在や、仮想通貨を用いて違法なものが取引される闇サイトの問題など、様々な視点や事例が紹介され、活発な議論が交わされました。
今後も、学内の多様な分野をつなぎ、新たな研究の萌芽を育てる場として、この取り組みを継続していきます。