人材育成・社会貢献
分子ロボット倫理シンポジウム「分子ロボットELSI論点モデル・ライフコースモデルの先へ:科学コミュニケーション実践をつうじた論点モデルの構築」を開催しました。
2023年2月24日に分子ロボット倫理シンポジウム「分子ロボットELSI論点モデル・ライフコースモデルの先へ:科学コミュニケーション実践をつうじた論点モデルの構築」をオンライン形式で開催しました。登壇者5名の他、47名にご参加いただきました。
<イベント概要>
■ 開催日時:2023年2月24日(金)13:00〜15:00
■ 実施形態:Zoomによるオンライン開催
■ 主催:トヨタ財団2019年度特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」助成題目「分子ロボットロードマップ構想に向けた分野間・国際間共同研究」(代表者:標葉隆馬)
■ 共催:分子ロボット倫理研究会、大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)
*本シンポジウムは、JST-RISTEX「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム」プロジェクト「萌芽的科学技術をめぐるRRIアセスメントの体系化と実装」(代表者:標葉隆馬)の研究開発の一環として実施。
■ 開催案内ページはこちら:https://elsi.osaka-u.ac.jp/contributions/1990
まず、大阪大学ELSIセンター 標葉隆馬 准教授から、今回のシンポジウムの趣旨説明と、自身が代表を務める「分子ロボットロードマップ構想に向けた分野間・国際間共同研究」プログラムについての説明がありました。
次に、国立研究開発法人海洋研究開発機構 小宮健 研究員より、「分子ロボット研究者はなぜ未来について考えるのか」として、生物と同じ原理で動作する、ロボットの三大機能要件を満たすようなシステムを創出する分子ロボット技術の概要説明と分子ロボット倫理研究会の取り組みの紹介が行われ、技術の萌芽的段階から研究者自身が積極的に技術の未来について議論することが、望ましいかたちでの「研究者の自治」のために必要であると説明されました。
続いて、大阪大学ELSIセンター 森下翔 特任研究員より、「分子ロボットのELSI/RRI:市⺠対話の実践とELSI論点モデルの構築」として、分子ロボット倫理研究会の取り組みの一環として行われた市民対話ワークショップの試みと、そこから生み出された分子ロボットELSI論点モデル・ライフコースモデルについて紹介が行われました。さらにこうした分子ロボット研究者との協働をもう一歩進め、日本科学未来館において分子ロボットの現状と可能性について市民と直接対話するオープンラボイベントの開催に至ったこと、そこで行われているRRI(責任ある研究・イノベーション)実践についての文化人類学的探究というかたちでそれぞれの専門性を生かした共同研究が継続していることが論じられました。
さらに、大阪大学ELSIセンター 河村賢 特任助教より、「デュアルユース倫理の先へ:未来を洞察する責任をめぐって」として、これまでの協働のなかで分子ロボット研究者たちが語ってきた「未来を洞察する責任」は単純な免責論にも無限責任論にも当てはまらない価値を持っていること、研究者の責任と自治のバランスを取るという方向性は、現代的な責任論の中核にある「前向き責任」についての議論とも響きあっていることが論じられました。またそのような洞察そのものが、分子ロボット研究者との協働を数年間にわたって継続していくなかで初めて得られたものであることが語られました。
ここまでの発表を受け、2名の討論者からコメントがありました。まず東京工業大学 小長谷明彦 名誉教授より、分子ロボット技術においては技術が萌芽的な段階からさまざまな分野の研究者の協働による未来洞察が積み重ねられてきたことは重要な達成として評価できる一方で、そうした達成を踏まえた上で今後どのようにして分子ロボット技術の社会実装を目指していくのかが大きな課題であるということが述べられました。具体的には、自己増殖やジェネティクスとの展開・接続可能性について今後はより活発な議論が求められており、分子ロボット研究者と人文社会系研究者の協働を継続していくためには、双方が協働に対してコミットメントの意識を持つことが重要なのではないかということが、自身の経験に基づいて語られました。
次に、大阪大学ELSIセンター 岸本充生 センター長より、分子ロボット研究者と人文社会系研究者の協働はこれまでのところ萌芽段階から予防的にRRI対応が行われている成功例であるとしても、こうした成功がなぜ可能となったのかを明確にし、誰でも利用可能な知見にしていくことが重要だという議論がなされました。
これらのコメントについて発表者から、社会実装を見据えて自己増殖などの具体的なイシューについての未来洞察を行う場面では、未来を記述するための言葉や概念自体を明確化するとともに、そうした将来像とその実現可能性を可能な限り数量化して、定量的に示すということが必要なのではないかといった応答がありました。
シンポジウム終盤は、参加者から寄せられたコメントに答える形で議論が続きました。取り上げられたトピックは以下の通りです。技術が萌芽的な段階からその技術が将来もたらしうる影響について洞察を行うことの必要性について、そうした未来洞察を分子ロボット研究者・人文社会系研究者たちそれぞれの専門性を生かした形で行うためにはどのような協働体制を構築していけばよいのかということについて、そこに産業界や行政といった他のタイプのアクターをそれぞれの能力と権限に即した形で巻き込んでいく必要があるのではないかということについて、など。
このシンポジウムを通じて、これまで数年間に及ぶ分子ロボット研究者と人文社会系研究者の協働がもたらした成果や、さらなる展開の可能性を展望することができました。