人材育成・社会貢献

人社系部局連携プロジェクト 研究交流会「マーケットプレイスを考える vol.2 マーケットプレイスと信頼」を開催しました。

2026年1月21日、人社系部局連携プロジェクト 研究交流会「マーケットプレイスを考える vol.2 マーケットプレイスと信頼」を開催しました。

人社系部局連携プロジェクト 研究交流会は、現代社会における様々な事象・課題を、人文社会科学の視点から多角的に探求すべく、部局横断で立ち上げた研究会で、分野の垣根を越え、共に考察を深め、研究シーズの発掘に繋げることを目指しています。

2025年10月に開催された第1回では、CtoCマーケットプレイスという題材に対して各分野からのアプローチが紹介されました。第2回となる今回は、第1回の議論を踏まえ、各分野で横断的に重要なテーマとして浮上した「信頼」に焦点を当て、より掘り下げた議論を行いました。学内部局の教職員など25人が参加しました。

<イベント概要>
■ 開催日時:2026年1月21日(水)10:00〜12:00
■ 会場:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 全学教育総合棟Ⅰ 3階 COデザインスタジオ(341号室)
■ 主催:大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)
■ 共催:大阪大学 人文社会科学系戦略会議
■ 協力:大阪大学COデザインセンター
■ 開催案内ページはこちら:https://elsi.osaka-u.ac.jp/contributions/4184

 

まず、大阪大学ELSIセンター 岸本充生センター長から第2回の趣旨が説明されました。第1回で各分野から提示されたアプローチを振り返りつつ、オンラインCtoCマーケットプレイスにおける「信頼」がどのように形成・維持されているのかという共通の問いが提示されました。既存の対面取引ではブランド価値や長期的取引関係、地域の人間関係などを通じて信頼が構築されてきましたが、オンラインの個人間取引ではそれらが使えない中でどのような信頼が成立しているのかが、今回の議論の出発点として示されました。

 

続いて、4人の研究者による話題提供が行われました。

ゲストによる話題提供
倫理学の観点から 
長門 裕介(大阪大学ELSIセンター 講師)
倫理学の観点から、「信頼」の哲学的分析とオンラインCtoCマーケットプレイスへの応用が論じられました。信頼には認知的信頼(合理的・計算的)、制度的信頼(役割・属性への期待)、感情的信頼(根拠なき楽観)の三つの層があるという枠組みが紹介されました。この枠組みを用いて、フリマアプリ上では「取引重視型」と「交流重視型」のユーザーが混在しており、後者が求める感情的信頼にシステムだけでは応えられないことが摩擦の一因であると分析されました。さらに、公式ルール・暗黙の規範・自生的ルール(「プロフ必読」「専用出品」など)の三層構造を踏まえ、プラットフォーマーの役割が「信頼を提供する」ことから「信頼が生まれる場を設計する」ことへ転換しうる可能性が論じられました。

 

文化人類学の観点から 
山崎 吾郎(大阪大学COデザインセンター 教授)
文化人類学の観点から、「信頼と感情」「信頼と詐欺」という二つの切り口が提示されました。文化人類学では信頼を個人の内面に限定せず関係性の中で生成するものとして捉えること、またルーマンの複雑性の「縮減」やラトゥールのブラックボックス化の議論を参照しつつ、信頼のプラグマティックな生成について論じられました。次に、特殊詐欺の事例を通じて、信頼の研究と詐欺の研究が表裏一体であることが指摘されました。現代のCtoCマーケットプレイスにおいては、信頼の根拠が「全人格」ではなく、分人(レビュー、履歴、バッジ等)、装置(検索順位、エスクロー等)、制度(ポリシー、紛争解決フロー等)に分散して配置されているという「分散化された信頼」の枠組みが指摘されるとともに、信頼が成立するための社会的環境・技術的環境の特性を理解する必要性があることが論じられました。

 

経済学の観点から 
松島 法明(大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授)

経済学の観点から、信頼の計測方法とオンライン取引における評判形成メカニズムが紹介されました。ケネス・アローによる「ほぼ全ての商取引には信頼の要素が含まれている」というテーゼを起点に、アンケート調査(GSS等)、BergらのTrust gameに代表される経済実験、実際のオンライン取引データを用いた現場実験という三つの測定手法が整理されました。続いて、先行研究をもとに、フィードバックが公共財であるにもかかわらず意外と提供されていること、売り手からの報復を恐れた買い手のバイアス、中庸な感想を持つ人がフィードバックを提供しない傾向などが指摘され、そうした評価システムの効果的な集計や活用方法については、研究が進められていることが論じられました。

 

法学の観点から 
津野田 一馬(大阪大学大学院法学研究科 准教授)
法学の観点から、「個人間マーケットプレイスにおける個性と信頼」と題して、法律が「個人」をどのように捉えているかという問いが提起されました。「分人」概念と民事法の考え方に親近性があるという着想を出発点に、民事法では人は個々の法律関係において匿名的・無個性な存在として立ち現れること、例外的に「人」の全人的な評価が問題となるのが信頼・信用の場面であること、そして法律における「信用」は基本的に「債務を履行できるだけの資力」を意味することが信用毀損罪の事例を通じて説明されました。さらに、株主有限責任制度やエスクローサービスなど、信頼が問題となる場面でも人を「匿名化」して取引を可能にする仕組みが紹介されました。最後に、AIスコアリングのように信用を精緻に評価する方向と、エスクローやブロックチェーンのように信用評価を不要にする方向が「コインの裏表」の関係にあることが論じられました。

 

全体討論では、参加者から寄せられた質問・コメントに基づいて、「信頼」をめぐる分野横断的な議論が展開されました。trust gameなど経済実験の手法やエスクローサービスの現代的意義などのほかに、マーケットプレイスにおける相互評価の基準に文化差がある可能性などが議論されました。

今後も、学内の多様な分野をつなぎ、新たな研究の萌芽を育てる場として、この取り組みを継続していきます。


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