人材育成・社会貢献

科学技術コミュニケーションワークショップ「哲学対話カフェ~死者の言葉の紡ぎかた~」@オンラインを開催しました。

2021年5月8日、9日に科学技術コミュニケーションワークショップ「哲学対話カフェ~死者の言葉の紡ぎかた~」を開催しました。今回は「科学技術による死者の再現」をテーマに、大阪大学社会技術共創センター(ELSIセンター)と北海道大学CoSTEPとの共催企画として実施しました。5月8日に2回、5月9日に1回の計3回開催し、合計12名の方にご参加いただきました。

<開催概要>
■ 開催日時:
  2021年5月8日(土)(1)13:00〜15:00
  2021年5月8日(土)(2)15:30〜17:30
  2021年5月9日(日)(3)15:30〜17:30
■ 実施形態:オンライン開催
■ 主催:北海道大学 高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター科学技術  コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)、大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)
■ ファシリテーター・進行:原 健一(北海道大学CoSTEP 博士研究員)
■ ファシリテーター・書記:鹿野 祐介(大阪大学ELSIセンター 特任研究員)

今回の企画は以前、CoSTEPで実施された同テーマの企画を、より内容に踏み込んで参加者どうしで疑問や議題を共有できように、対話の設計を大きく変更し実施しました。特に、個々の参加者の考えと他者との差異を明確化するために、クローズド・クエスチョンによるQ&Aのワークセッションを設け、道徳的なジレンマや葛藤、あるいは自身の主張の一貫性の欠如を意識できる工夫と、また、お互いの考えをじっくり共有するための対話の設計に注力しました。これらは、その後の対話を活発にし、論点の深掘りを促進する仕掛けとして機能していたように思います。

今回開催した3回の企画は対話の入り口は同じでしたが、その後の対話のプロセスや結果としてたどり着いた地点はいずれもまったく異なるものでした。以下、簡単にそれぞれの回の中心的な論点を紹介します。

 

(1) 死者の再現で重要なことは、残された人々の倫理観である。

この回で中心になった問いは、「死後の自分がAIやVRで再現されるとして、誰による、どのような使用であれば、再現が許される/許されないのか」ということでした。親しい人が個人的な用途で再現することは許容できても、そうではない再現はどこまで許容できるか。たとえば、美空ひばりのAIによる再現は、美空ひばりさんと親しかった人以外の大勢の視聴者にも提供されていたので、本当はやってはいけない再現だったということになるのでしょうか。あるいは、死者を商業的な意図や目的で再現することが、死者の冒涜になることはあるのでしょうか。こういった事例の線引きの難しさを考える中で、再現される故人への認知が再現への許容度と大きく関わるという話題がありました。(再現への抵抗感は、再現される人の認知度が低ければ低いほど、下がる)。そのうえで、より広範な目的で死者の再現がなされるためには、生前の意思確認を中心とした規範やガイドラインの策定など、死者を再現する側の遺された人々の意識や働きかけが重要だということが議論されました。

<1回目の対話のホワイトボードの一部>

 

(2) 再現・リプレイと、創作・パロディの間には明確な線引きがある。

この回では、冒頭に、「AI美空ひばりは「再現」とは言えないのではないか」という疑問が挙げられ、その後、「どのような再現が本当の意味で「再現」と呼べるのか」が中心的な問いになり議論が展開しました。AI美空ひばりは、制作過程でオリジナルの美空ひばりさんの遺されたデータが再現に用いられていますが、その歌唱や台詞、動作はすべて現代の人々の手によって生み出されたものです。再現を制作する側の意図や、その人自身のものではない要素が混入されれば、それはもはや「再現」ではなく、「(二次)創作」になってしまうのではないでしょうか。

しかし、「再現」にその人自身のオリジナルな部分だけしか認められないとすれば、遺された人々の側で再現を作成することは原理的に不可能となってしまうではないでしょうか。どのような条件を満たせば、私たちはひとを「再現」したと言えるのでしょうか。

<2回目の対話のホワイトボードの一部>

 

(3) 「再現」と言える明確な条件は、自分自身でAIを作成すること。

この回では、AIによる再現であれ、写真や動画であれ、死者を再現することは避けられない営みだということが確認されました(死者を想起することは人々の本質的な営みである)。広い意味で、死者の「再現」が人々にとって避けがたい本能的な営みだとすると、その「再現」の質をどう確保するかということが問題となります。そのために、死後の自分の情報をどう扱って欲しいかという死にゆく者の視点と、死者をどのように再現すべきかという遺される者の視点の両方から話題が展開されました。そのうえで、他の誰でもなく、自分自身が作成したAIによる再現ならばもっとも明確に許容できそうだということが議論されました。また、再現技術の発展とそれに対する個々の抵抗感にも触れながら、故人との関係性をどう再現に活かすか、私たちの社会や文化がどのようにそれを受容するかも議論されました。

<3回目の対話のホワイトボードの一部>

 

三者三様、いずれの回も話題の尽きない時間でした。今回のイベントを通して、思いもよらぬ発見を他の参加者の発言から見出したり、自分自身の考えを深めるきっかけになったりしているのであれば幸いです。参加していただきました皆様には、改めて心より感謝いたします。企画者側でも、参加者の皆様から、思いもかけない論点の提示や、改めて気づかされることも多くありました。オンラインでのイベントということもあり、アフタートークの実施なども含めて、今後も、科学技術をめぐる哲学対話のイベントを充実させていきたいと思います。

 

 


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