人材育成・社会貢献
ELSIセンター研究会「工学の哲学とELSIの接点を探る」が行われました。
2026年2月16日、大阪大学中之島センターにて、ELSIセンター研究会「工学の哲学とELSIの接点を探る」が開催されました。
本研究会は、工学の哲学や工学倫理の議論とELSI研究の接点を探ることをテーマにしたもので、工学の哲学、研究倫理審査、産学連携という3つの切り口から話題提供と講演が行われ、フロアからの質疑にもとづく議論も行いました。
当日は、31名が参加しました(オンライン参加者も含む)。

<イベント概要>
■ 開催日時:2026年2月16日(月)15:00〜17:30
■ 開催形態:ハイブリッド開催(大阪大学中之島センター 5階から配信)
■ 主催:大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)
■ 共催:名古屋工業大学技術倫理研究会
■ 開催案内ページはこちら:https://elsi.osaka-u.ac.jp/contributions/4221
今回の研究会では3名の登壇者による話題提供と講演が行われました。
鹿野 祐介 氏(大阪大学COデザインセンター)からは、「責任ある研究開発のための倫理的実践の模索」と題した話題提供があり、研究倫理審査(REC)とテクノロジーアセスメント(TA)の間に存在するギャップが論じられました。両者の間には、倫理的関心の射程(個人か社会か)、評価のタイミング(時点か継続か)、プロセス(研究から技術開発への責任帰属)という3つのギャップがあることが示され、これを埋める「高度化」の取り組みとして、ELSIセンターがこれまで進めてきた各企業との共同研究の事例が紹介されました。
肥後 楽 氏(大阪大学ELSIセンター)からは、「人文社会科学分野の産学連携とELSI」と題し、ELSIをテーマとした産学連携の実践が報告されました。共同研究の面白さとして、知見・データ・人材の循環、実際に活用されるプロダクトの開発、協働プロセス自体が研究対象になる点が挙げられる一方、課題として企業内での共同研究シーズの探索・マッチングの難しさや、研究の目標・意義・成果を多様な関係者にそれぞれの関心に寄り添いながら伝えることの困難さが指摘されました。
太田 匡洋 氏(名古屋工業大学 基礎類)からは、「工学とは何か、なぜ工学倫理が必要なのか」と題した講演が行われました。哲学の観点から工学という営みの特徴が整理されました。工学は「現象知への着目」「創造・制御・管理の志向」「自然科学の方法の参照」「人間社会との関わり」という4つの特徴を持つこと、そしてこれらの特徴を踏まえて工学における倫理的主体が「設計主義」「制御主義」「管理主義」の3つの作業仮説のもとで捉えられることが提示されました。さらに、医療倫理の4原則とのアナロジーから工学倫理を体系化する可能性や、工学倫理とELSIの重なりと相違についても論じられました。

全体討論では、参加者から活発な質疑が行われました。工学倫理における「公衆」を受動的な素人としてのみ捉えてよいのか、モラル・ジレンマを軸にした教育はそもそも工学倫理と相性がよいのか、医療倫理だけでなく企業倫理とのアナロジーも有効ではないかといった、工学倫理の理論的枠組みに関する問いが多く寄せられました。また、ELSIの現場では知識の一方的な注入やチェックリストの作成が求められがちではないかという率直な指摘や、ELSIの現状の産学連携の取り組みが倫理(E)中心であることへの問題提起、既存の学問分野と比べたELSI固有の実践とは何かという根本的な問いも提起され、理論と実践の双方にまたがる議論が展開されました。
今回の研究会を通じて、工学の哲学という理論的基盤とELSIの実践的取り組みの間に豊かな接点があることが示されるとともに、工学倫理の体系化やELSI産学連携の展開に向けた多くの課題と可能性が浮き彫りになりました。大阪大学ELSIセンターでは今後も、多様な立場の研究者や実務者と協働しながら、理論的省察と社会的実践を往還する拠点としての役割を果たしていきます。