総長挨拶
社会技術共創研究センター (ELSIセンター)発足にむけて
1999年のブダペスト宣言以来、21世紀の科学技術は人類的課題に貢献する公共財としての役割を求められるようになりました。各国の政府や産業界は新規科学技術の研究開発に膨大な投資を行うようになり、その社会実装を通じて人類社会のwellbeingの実現が期待されるようになっています。これは科学技術の研究開発のスタイルに変更を迫るものです。何が人類のwellbeingなのか、この科学技術はそれにどのように貢献するのか、を研究開発の初期の段階から考える必要があるのです。つまり、科学技術の卓越性の追求のみならず、社会的便益の向上、安全・セキュリティの確保、権利利益の保護、国民各層の受容等、倫理的・法的・社会的課題(ELSI : Ethical, Legal and Social Issues)を早期に抽出し、的確に対応することが必要不可欠になるのです。そして、このような検討を行うことこそが、研究者の自由な研究環境を保障するものなのです。
大阪大学ではこのような認識のもとに、新規科学技術に関するELSIの総合的研究拠点として「社会技術共創研究センター(ELSIセンター)」を令和2年4月に設置しました。本センターは、新規科学技術に関して、(1)人文社会科学の知見を学術領域横断的に糾合することによりELSIへの対応やガバナンスの在り方を総合的に研究する機能、(2)ELSIに関する各学術領域の知見あるいはELSIに関し知見を有する研究者等を紹介するハブ機能、(3)ELSIに関するワークショップ等を実践することで事業者、行政、市民等ステークホルダーをつなぐ機能、そして(4)ELSIの抽出及び対応に貢献し得る人材(ELSI人材)の育成に向けた教育等を実施する機能を備えることにしています。
本センターの設置は、大阪大学が目指す社会との共創(Co-Creation)を通じた、「社会変革に貢献する世界屈指のイノベーティブな大学」という目標達成に向けての核心ともいうべきものと考えています。ライフサイエンスや情報科学技術などに代表される、新規科学技術の急速な発展は、人類に大きな貢献をする可能性を持っています。しかし、そのメリットを最大限に活用するためには、ELSIに関する検討を避けては通れない状況になっているのです。本センターにおいて理工情報系及び人文社会科学系の知見を糾合し協働することを通じて、学内を中心とする幅広い研究交流を促進し、学際的な研究を活性化するとともに、人類社会のwellbeingに貢献する新しいイノベーションのモデルを国内外に示していきます。
皆様方のご支援とご参画を心からお願い申し上げます。
2020年4月1日
大阪大学 総長 西尾 章治郎