人材育成・社会貢献
ELSIセンター研究会「未来の社会像を創造する―埋め込み型サイボーグ技術のELSI―」@オンラインが行われました。
2021年6月14日、ELSIセンター研究会「未来の社会像を創造する ―埋め込み型サイボーグ技術のELSI―」@オンラインを開催しました。
ELSIセンターは、新規科学技術の研究開発や社会実装において顕在化しうる倫理的・法的・社会的課題(ELSI : Ethical, Legal and Social Issues)を早期に見出し、研究開発と並行してELSIに取り組んでいく、ということをミッションの1つに掲げています。
今回の研究会は、埋込サイボーグ技術を取り上げ、この技術の社会実装と、そのELSIについて議論を深めました。この日は、登壇者や運営スタッフを含め31名が参加しました。
*本研究会は、「ムーンショット型研究開発事業・新たな目標検討のためのビジョン策定(ミレニア・プログラム)」に採択されている「埋込サイボーグ技術の社会実装に係る技術・社会的課題および社会システムに及ぼす影響に関する調査研究」を進めている埋込サイボーグ技術社会実装検討チームと企画・実施しました。
<研究会概要>
■2021年6月14日(月)13:00〜15:00
■ 実施形態:オンライン開催(招待制)
■ 主催:大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)
■ 共催:国立研究開発法人科学技術振興機構「ムーンショット型研究開発事業・新たな目標検討のためのビジョン策定(ミレニア・プログラム)」「埋込サイボーグ技術の社会実装に係る技術・社会的課題および社会システムに及ぼす影響に関する調査研究(代表:藤原幸一)」
■ 開催案内ページはこちら
標葉隆馬准教授から、本研究会の趣旨について説明があった後、まずは、「埋込サイボーグ技術の社会実装に係る技術・社会的課題および社会システムに及ぼす影響に関する調査研究」のチームリーダーである藤原幸一氏(名古屋大学大学院工学研究科 准教授)とチームメンバーの1人である藤田卓仙氏(慶應義塾大学医学部 特任准教授)から、現在想定されている技術について、そして、その技術が導入された未来の社会像についての紹介がありました。
■ 話題提供者:
藤原 幸一(名古屋大学大学院工学研究科 准教授)
藤田 卓仙(慶應義塾大学医学部 特任准教授)
藤原氏からは、「ムーンショット型研究開発事業・新たな目標検討のためのビジョン策定(ミレニア・プログラム)」の概略や、チームリーダーとして進めている研究課題「サイボーグ技術によって身体を再定義し、自己の能力を従来の人の限界を超えて高め誰もが自己実現できる社会」について、紹介がありました。
研究課題「サイボーグ技術によって身体を再定義し、自己の能力を従来の人の限界を超えて高め誰もが自己実現できる社会」の概要
人と機械を融合させるサイボーグ技術の進化は、私たちの身体を強化し新たな能力を獲得できる未来をもたらします。このような社会の実現には、技術開発のみならず倫理的な課題についても社会的な議論が必要です。本研究調査では、サイボーグ技術開発に係る諸課題について、文献および有識者へのインタビュー、多様なステークホルダーとのワークショップを通じて調査し、サイボーグ技術の社会実装の可能性について議論します。
(ムーンショット型研究開発事業のウェブサイトより)
このチームで提案する社会像としては、2050年までに、埋込サイボーグ技術をつかって「なりたい自分になれる社会」(身体的制約に囚われることなく、現実社会において自分が果たしたい役割を果たすことや、本来能力を超える創造性を発揮することに挑戦することができる社会)とのことで、この社会像の実現に向けた技術的な俯瞰マップや乗り越えなくてはならない技術的な課題が提示されました。
藤田氏の話題提供では、有識者によるワークショップや有識者へのヒアリングの結果をもとに描かれる「埋込サイボーグ技術が引き起こすもの」、つまり、この技術を前提としたときにどういった未来像を描くことができるのか、ひとびとの価値観がどのように変化しうるのか、といったことに関して、チームがどのような検討を行ってきたのかを紹介していただきました。
後半は、話題提供者2名に、ELSIセンターから4名が加わって、埋込サイボーグ技術のELSIについてパネルディスカッションを行いました。
■ パネリスト:
藤原 幸一(名古屋大学大学院工学研究科 准教授)
藤田 卓仙(慶應義塾大学医学部 特任准教授)
岸本 充生(大阪大学ELSIセンター センター長/教授)
八木 絵香(大阪大学ELSIセンター 教授)
赤坂 亮太(大阪大学ELSIセンター 准教授)
鹿野 祐介(大阪大学ELSIセンター 特任研究員)
■ 司会:
標葉 隆馬(大阪大学ELSIセンター 准教授)
パネルディスカッションは、標葉准教授がここまでの話題提供で提示された論点を整理するところから始まりました。例えば、以下のような論点です。
・先天的に不自由を抱えた子どものサイボーグ技術を用いた治療に関する決定権は誰にあるのか?
・不自由がない「標準的」な人体への指向が強まり、サイボーグ技術を用いた治療を選択しない人への包摂や倫理が問題になるのではないか?
その後、ELSIセンターからのパネリスト4名が、これらの論点に関連する話題を提示したり、新しい論点を追加したりする形で、パネルディスカッションは進みました。
埋込サイボーグ技術のELSIについて、この時間で議論された論点は、以下のようなものでした。
・「誰もが自己実現できる社会」といったときの「誰も」とは誰のことなのだろうか。この技術が適用されるターゲットはどう想定されているのだろうか。
・サイボーグ技術を想定するときに出てくる「自分の身体はどこまでを指すのか?」、「自己決定の範囲は?」、「費用面で、この技術を使える人と使えない人の格差がうまれてしまうのでは?」といった議論は、これまでに再生医療分野で議論されてきたことを活かすことができるのではないか。
・サイボーグ技術による解決が尊重されたいケースにはどのようなものがありうるのだろうか。
・この技術が目指している目標が中途半端に達成されたときの状況を想定しておくべきではないか。つまり、「技術的にできる」ということと「誰もがつかえる」ということの間をどう扱うのか。
新規科学技術の社会への実装が想定され始めた段階で、科学者・技術者のみなさんと共に、その科学や技術についてのELSIについて議論する、という取り組みは、今後も積極的に行っていきたいと考えています。