人材育成・社会貢献
シンポジウム「学習データ利活用EdTech(エドテック)のELSI(倫理的・法的・社会的課題)」を開催しました。
2022年2月1日にシンポジウム「学習データ利活用EdTech(エドテック)のELSI(倫理的・法的・社会的課題)」を開催しました。
近年、教育現場でのICT活用がGIGAスクール構想等によって飛躍的に進んでいます。「学習データ」等を利活用する EdTech(Educational Technology, エドテック)を用いたサービスが数多く提供され始めると同時に、「学習データ」の利活用に関する議論も進みつつあります。そのような中、日本の公教育でEdTechを用いていくために考えておく必要のある倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について、多様な専門分野の研究者が集まるシンポジウムを企画・実施しました。
当日は268名(登壇者やELSIセンター関係者を含む)のみなさまにご参加いただきました。
<シンポジウム概要>
■ 開催日時:2022年2月1日(火)13:00〜16:00
■ 実施形態:オンライン開催
■ 主催:滋賀大学、大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)
*JST/RISTEX「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム」プロジェクト企画調査「学習データ利活用EdTech(エドテック)のELSI論点の検討」(代表者:加納圭)の一環として実施。
■ 開催案内ページはこちら:https://elsi.osaka-u.ac.jp/contributions/1434
今回のシンポジウムは、2部構成になっていました。パート1では「EdTechのELSI論点に着目する理由」をテーマに、パート2では「学習データ利活用EdTechの実例紹介と、E(倫理的)・L(法的)・S(社会的)観点からみたELSI論点」をテーマに、話題提供とパネルディスカッションが行われました。また、本シンポジウムは、手話通訳が入り、音声を文字に変換するアプリ「UDトーク」も活用しつつ進めました。
簡単にシンポジウムの内容を振り返ります。
総合司会を務める大阪大学 村上正行 教授から、今回のシンポジウムの進め方について説明があったのち、「学習データ利活用EdTech(エドテック)のELSI論点の検討」プロジェクトの代表でもある滋賀大学 加納圭 教授を含む3名のプロジェクトメンバーからの話題提供が行われました。
以下、話題提供のスライド(PDF)も合わせてご覧ください。
パート1「EdTechのELSI論点に着目する理由」
なぜ、いま学習データ利活用EdTechのELSIに注目するのか(PDF: 7.1MB)
加納圭(滋賀大学大学院教育学研究科 教授)
2021年10月より進めてきた「EdTechのELSI論点の検討」プロジェクトの概要が紹介されたのち、プロジェクトメンバーを中心に制作され、2022年2月1日に公開されたばかりの「EdTech(エドテック) ELSI論点101」について説明がありました。
新興技術の社会実装としてみたEdTechのELSI論点(PDF: 1.3MB)
岸本充生(大阪大学社会技術共創研究センター センター長/教授)
新しいテクノロジーの倫理的・法的・社会的課題(ELSI)が注目されるようになった背景についての説明があり、また、EdTechを「新しいテクノロジーを教育、特に公教育の文脈に適用すること」と位置づけたうえで、どのようなELSIが生じそうか検討する必要があるといったことが指摘されました。
日米比較からみた日本型公教育におけるEdTechのELSI論点(PDF: 512KB)
藤村祐子(滋賀大学大学院教育学研究科 准教授)
米国において、学習データ利活用をめぐって、または、顔認識・音声認識EdTechをめぐって、すでにELSIが顕在化している事例が紹介されました。加えて、日本型公教育としてとりあげられる教育制度・仕組みの特徴についても解説がありました。
パート1のパネルディスカッションは、指定討論者に理化学研究所 原山優子 理事をお迎えし、京都大学 塩瀬隆之 准教授が進行しました。公表された「EdTech(エドテック) ELSI論点101」を今後どのように深堀り・活用していくことになるのか、EdTechが導入されることによって日本の教育システムの在り方そのものを再考する必要性が出てくるのではないか、E(倫理的な観点)とL(法的な観点)とS(社会的な観点)を切り分けて議論しているけれど、それらを統合した時に何が見えてくるのか、といったことが話題になっていました。
休憩を挟んで、パート2では、4件の話題提供がありました。
パート2「学習データ利活用EdTechの実例紹介と、E(倫理的)・L(法的)・S(社会的)観点からみたELSI論点」
事例紹介:全国学力・学習状況調査の悉皆データを利活用したコンピュータ適応型テスト「学力学習チャレンジアプリ」(PDF: 3.9MB)
加納圭(滋賀大学大学院教育学研究科 教授)ほか
「学力学習チャレンジアプリ」の開発や実証実験から得られた知見や、コンピュータ適応型テストに対する教師や児童からの反応についての紹介がありました。
倫理の観点からみたEdTechのELSI論点(PDF: 176KB)
神崎宣次(南山大学国際教養学部 教授)
倫理学の立場から、EdTechのELSI論点を検討する際に必要な視点(例えば、倫理的評価やELSIには“足場”が必要であることなど)が提示されました。
憲法学からみたEdTechのELSI論点(PDF: 1.1MB)
堀口悟郎(岡山大学学術研究院社会文化科学学域(法学系) 准教授)
憲法学の立場から、EdTechのELSI論点、特に、プライバシー権、教育を受ける権利、教育の自由についての論点が紹介されました。
社会受容の意識調査からみたEdTechのELSI論点(PDF: 6.4MB)
後藤崇志(滋賀県立大学人間文化学部 講師)
今回のプロジェクトの一環として実施されたEdTechの社会受容意識査より、主に、アルゴリズムを用いた学習の個別最適化について人々がどのようなものを受容し、どのようなものを受容し難いのかという観点からの速報的な結果が紹介されました。
パート2のパネルディスカッションは、指定討論者に、シティライツ法律事務所 水野祐 弁護士をお迎えしました。「個別最適化」という言葉がEdTechを導入する意義として掲げられることがあるが、何を目的にし、誰にとっての最適なのか、また、EdTechが導入されることによって新しく出てくるデータの権利帰属をどのように考えていくのか、その共有の範囲や利用用途をこれから多様な立場の人々と考えていかなければならない、といったことなどが議論されました。
視聴されていた方からも、数多くの質問やコメントをいただきました。みなさま、ありがとうございました。
「学習データ利活用EdTechのELSI論点の検討」プロジェクトはまだ始まったばかりです。今後のプロジェクトの研究・実践活動の参考にさせていただきますので、よろしければ、アンケートへのご協力をお願いします。
https://forms.office.com/r/t6SnNa9NG4
(回答は、2022年2月末まで受け付けています)