2025年9月29日、メルカリR4Dラボ・大阪大学協働研究所 Cross Talk Program vol.1「フィールドからルールが生まれるとき ―スポーツ史と法学の対話―」を開催しました。
メルカリR4Dラボ・大阪大学協働研究所は、人文社会科学の知見を通じて「あらゆる価値が循環する社会」の展望を見通し、価値の循環にまつわる多様なテーマに取り組んでいます。その一環として、産学をつなぎ、異分野の知を交差させる対話の実験場として始動したのが「メルカリR4Dラボ・大阪大学協働研究所 Cross Talk Program」です。
第1回となる今回は、フットボールの現場からボトムアップで生まれたルールづくりのプロセスを手がかりに、規範やルールがどのように社会のなかで形作られていくのか、過去から現在の事例についての横断的な議論を行いました。
<イベント概要>
■ 開催日時:2025年9月29日(月)15:00〜17:00
■ 会場:大阪大学中之島センター 5階 *ハイブリッド開催
■ 主催:メルカリR4Dラボ・大阪大学協働研究所
■ 開催案内ページはこちら:https://elsi.osaka-u.ac.jp/mercari/events/post-260/
現代において「ルール」は、まるで天から降ってくるもの、受け入れざるを得ないものとしてイメージされがちです。しかし実際には、ルールは現場の実践を踏まえて作り変えられていくこともあれば、単なる禁止ではなく、立場の異なるアクター間の相互協調を可能にする道具として機能することもあります。本イベントでは、こうした固定観念から離れ、スポーツルールの成立過程や新興技術のガバナンスという異なる領域から、ボトムアップなルール生成のパターンを探りました。
藤井翔太氏(大阪大学社会ソリューションイニシアティブ)からは、19世紀イングランドのフットボール史が紹介されました。学校・地域ごとに異なるルールが交流を通じてad-hocに運用され、徐々に統一されていった過程、審判の役割が「当事者間の調停」から「ルールに基づく裁定」へと変化した経緯、戦力均衡を目指す財政規則をめぐる選手の権利闘争、サポーター文化の確立と変遷など、具体的な事例を通じて、ルールが「生まれる」ダイナミクスが示されました。
赤坂亮太氏(大阪大学社会技術共創研究センター)からは、ボトムアップ的な法規範の形成として英米法における判例法の成立過程や日本法における慣習法・裁判例の役割が紹介されました。さらに、プロバイダ責任制限法の成立経緯やAIガバナンスにおける共同規制の考え方を踏まえ、サイバースペースの規律や身体拡張技術を用いた新しいスポーツのルールメイキングにいかにボトムアップ的にルールを形成するかという論点まで、議論が展開されました。
質疑応答では、アジャイル型ガバナンスはスポーツにも当てはまるのか、ローカルルールの標準化プロセスを一般化したフレームワークとして整理できるのか、サポーターのガバナンス参画がルールの理解や運用にどう影響するのかなど、多様な観点から活発な議論が交わされました。異なる領域の対話を通じて、現場主導のルール形成の可能性と課題が浮き彫りになる、大変有意義なイベントとなりました。
今後も、多様な領域の専門家・実務家をお招きして、現代社会の課題に新たな視点を提供する対話の場を創り出していきます。「メルカリR4Dラボ・大阪大学協働研究所 Cross Talk Program」の今後の展開に、どうぞご期待ください。