イベント開催報告

2020年12月25日 掲載

ELSIセンター研究会「新規科学技術に対する法的・倫理的視点からの含意」@オンライン が行われました。

2020年11月20日、ELSIセンター研究会「新規科学技術に対する法的・倫理的視点からの含意」@オンライン が行われました。

新規科学技術の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を考える上で、法的・倫理的な視点はどのように活かされ、またアプローチするのでしょうか。今回の研究会では、国内で新規科学技術をめぐる課題に法学・倫理学の視点から取り組むお二人の研究者をお迎えしました。

この日は、21名(含、登壇者や運営スタッフ)が参加しました。

<研究会概要>
■ 開催日時:2020年11月20日(金)13:30〜17:00
■ 実施形態:オンライン開催(招待制)
■ 主催:大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)


■ 話題提供者:
一家 綱邦(国立がん研究センター 社会と健康研究センター/生命倫理・医事法研究部 医事法研究室 室長)「再生医療をめぐる法的枠組みに関する研究」
横野 恵(早稲田大学社会科学総合学術院 准教授)「イノベーションを支えるデータ倫理規範の形成」

■ 総合討論まとめ:
岸本 充生(大阪大学ELSIセンター センター長/教授)

■ 司会:
標葉 隆馬(大阪大学ELSIセンター 准教授)


まず、国立がん研究センターの一家綱邦先生より、「再生医療を規制する法律とその課題」というタイトルで、再生医療の法制度とその運用が抱える課題についてお話しいただきました。

通常の医療において、医師の治療行為をその実施前に第三者による審査の形で規制するということはありません。しかし、再生医療においては、臨床研究だけでなく、治療に関しても、第三者審査という事前規制をかけることになっており、他の医療とは違う例外的な扱いになっています。再生医療安全確保法は、専門職団体や学会の倫理指針のみで問題が多いとされる自由診療を規制することの限界を踏まえ、規制される側である再生医療学会などからの要請を受けて立法されました。

再生医療安全確保法は、法が求める事前の手続を無視した医療行為を取り締まるうえで一定の効果をもたらしたこと、他方で、この法律はそもそも患者に提供される治療の有効性をチェックする仕組みにはなっていないこと、安全性・有効性が未確立な医療に対して慎重な実施を要請するヘルシンキ宣言などの国際的な医療倫理指針の水準からは隔たりがあること、といった論点を説明していただきました。また、治療計画の事前審査にあたる審査委員会が、再生医療を提供する医療機関からどこまで独立性を確保できているかという問題もあることが指摘されました。

次に、早稲田大学社会科学部 准教授の横野恵先生より、「イノベーションを支えるデータ倫理の形成」というタイトルで、英米の家族法や医療倫理についての研究から出発してデータ倫理の問題に取り組むようになるまでのご自身の問題関心についてお話をうかがいました。

横野先生は、子供への虐待や医療ネグレクトといった家族内でも弱い存在の問題に対して日本の法制度が介入に消極的なことに違和感を持つところから研究をスタートさせました。情報技術と個人情報の利用においても単に情報取得前に同意を確保するというアプローチでは、そもそも同意を表明することがリスクになったり、同意を行う能力に制約があったりする社会的脆弱性を持つ人々への配慮が足りないのではないかという関心から研究を進めていることが語られました。

パーソナルデータの利活用やAIに関する倫理の議論では、生命倫理学をモデルにして倫理原則を列挙する原則主義のアプローチが用いられることが多いものの、徳倫理学的アプローチに目を向けていくことも必要とされるのではないかという問題が提起されました。

一家先生、横野先生は、法学を専門としながらも法制度自体が抱える問題について幅広いアプローチを用いて問題解決を図ろうとしています。このお二人からの話題提供を受けて、ELSIセンター 岸本充生センター長から、ELSIという概念はあくまでも社会における課題がそもそも領域横断的なものとして存在することを指し示すものだったことをリマインドされたという発言がありました。加えて、個人情報を扱う企業に対してELSIへの取り組みの必要性を訴えていく際には、問題が発生するのを座視するのではなく、そうした問題にあらかじめ取り組んでいくことが企業価値や顧客からの信頼を高めるのだという形で説得するアプローチがあることなども述べられました。

さらに、総合討論の時間には、企業理念のように従来専門職倫理と呼ばれてきたものとは異質なものまでを「倫理」と呼ぶことが真に望ましいのかといった点、いわゆる「エシックス・ウォッシング」(=ELSIに配慮していることを装って、自分たちを正当化するようなこと)のような弊害を踏まえた上で多くのアクターをELSI課題への取り組みに巻き込んでいくために注意すべき点、などが論じられました。

倫理指針を定めたり、あるいはそれを法制化したりといったアプローチが持つ有効性、限界、さらにはそれらの代替案の方向性について、時にオーディエンスも交えて活発な議論が行われました。

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